声をかけると、「いや」とかぶりを振って一そう園子の膝へしがみつくようにする。
「この子は少し風邪気のようですからお家の方がいいのね。さ、こうやっておとなしくしていらっしゃい」
 園子は子供の上へ屈みこんで、袂を着せかけた。
 子供のいるということが妙に話を食い停めてしまう。老夫人は踏み出しのつかぬ気もちで焦れていたが、
「おしものことで、この間から相談をしてみたいと思うていたけれど、あの娘ももう年頃ですからねえ、どこか堅気なところへ嫁にやりたいと思うて……」
 話がいつかそれていた。
「急には心あたりもないけど、会社の人でどなたかいないかしら? 横尾にも話して心がけさせておきますわ」
「そうして頂けばわたしも安気ですよ。あれは小々呆んやりだけれど、まあ、気立てはよい方ですからねえ」
 それを云いながら、老夫人は自分の口を何やらよそものに感じた。

 涼しくはなりましたし、良人も病気上りの目立つ程に肥えふとり、鶴江も至って元気にてこの頃ではセリフの覚えも早く、子役で時折り舞台へ出る程になり、幸いの神もようようめぐり来たかと悦んでは居りますものの、ただ気になるのはこのわたくしの躯、顔色がなおったとは言い状、咳は又してもひっきりなし、それにこの頃の胸わるさ吐き気はどうやら子が宿っているらしく、弓子の死んだあとはもう見きりをつけていたものの、この境遇にまた一人ふえられてはどうしたものだろう、出来ぬでもよい身には出来、欲しい人には出来ぬ、と歎けば、良人は、縁あればこそ子も生れるのだ、犬猫でさえ何んとか育てていくではないか、また、生んだ時は生んだで何んとかなるだろうから、くよくよ案じるな、と力づけてはくれますが日増しに重くなる身で再び旅から旅へのさすらいとは……ああ、あね様、何やかや考えるとこの身の置きどころもないように思われ、心細くて心細くてなりません。

 仙太は、また、山に行きはじめた。
 守山は、もう、黄色な山肌をすっかり現わしていた。雪はわずかに、陽蔭に汚れたまま残っていた。
 女衆は、嫁菜や芹つみに、ずくずくする畔道や堀の岸に集った。
「仙太さんでねえしか」
 女衆は手のひらで額へ陽かげをつくりながら声をかける。
「山さかい。山さ行ってもお高さん居ねえしてえ」
 そして、どっと笑い合った。
 町では、菅原孫市がとうとう町長に費消金をはらってもらったという評判だった。町の人々は、菅原派とあぶらや派の半々に別れた。町会でも、兎角感情の衝突が頻発するようになり、あぶらやでは相当金を撒いているとも言われた。
 仙太は町の噂には一切耳を藉さなかった。
 お高が秋田市のさる大家へ乳母として一と月程前勤めに行ったという話をきかされた時も、別段動揺しなかった。昼間は、犬をつれて、山へ行った。銃は持たなかった。そして、家へ帰ると子供を抱いたまま炉端に坐りこんで、じっと物思いに沈んだ。

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